ミルミアと一緒に歩いていると会話があまりないので、
自然と早歩きになるため思ったよりも早く着いたようだ。
この診療所はギルドから北に約500mほど離れた場所にある、町唯一の医療機関だ。
それに加えて、ウィー自身の人気もあるので、
ここに足を運んだときはいつも待合室は人で溢れている。
しかし、ギルド関係者は優遇措置が取られており、
裏に特設の受付があるのでそこから入れば待たされることはない。
仕事によっては結構な怪我を負うこともあるので、そのためだ。
ウィーとリドが知り合いだということもある。
私はギルドの一員とはいえ、裏方の仕事が多いのでほとんど世話になったことはない。
さすがに風邪ごときでこっちを使うのも一般のお客さんに悪い気がするし。
今日は別に診察を受けるわけではないので、受付を顔パスして奥へ。
受付は別にあるとはいえ、病室は一般の人と相部屋になったりすることもある。
しかし、関係者用に個室もいくつかあり、重症患者はそっちに運ばれることが多いのだが、
最近はあまり使われることもなく、その関係者用に宛がわれている個室のうち2つは今は確か一般のお客さんが入っているはずだ。
「ねぇ、ここにリルグって名前の患者入ってないかな?」
私は通路を歩いていた看護婦に尋ねた。闇雲に探し回るよりこっちの方が早いだろう。
「リルグさん?……リルグさんリルグさん。ん〜?何処かで聞いたような」
頭を指でコツコツしながら考え出した。
音が軽い。頭の中身は焼きそばか何かだろうか。見た感じもポヤっとしているし。
「すみません、名簿を調べてきますので、少しお待ちください」
そう言って、彼女は小走りで戻っていった。
「普通患者の情報って、全体で共有されてるものじゃない?」
少し呆れながらミルミアに愚痴をこぼす。
私は自分のペースを崩されるのが嫌いだ。他の人と足並みを揃えて歩くなんてもってのほか。
それくらいなら、そいつらの先を行って背中を見せ付けてやった方がそいつらの為になるだろうし。
みんな並んで歩きたいって言うんならそれでも構わないけど、
皆で並んで転んだらそのまま皆で転ぶだけ。
私が先へ行って転んだなら、それを見た後ろの人は、少なくともその危険だけは回避出来るだろう。
差はあって然るべきだし、平等が必ずしも美しいものだなんて考え、吐き気がする。
「案外この診療所は広いですから、行き届いていない情報があっても仕方ないかと。
それか、リルグの情報が秘匿されている可能性もあります」
いつの間にか備え付けの椅子に座って、眼鏡をハンカチで拭いていたミルミアが言った。
椅子はまだ2つ空いていたけれど、私は通路の壁に寄りかかって口を開いた。
「でも、今までそんな風に隠されてたことなかったでしょ?少なくとも私のときは、
ここに来て、すぐ次の日には隣のシルドおじちゃんに普通に名前呼ばれて挨拶されたけど?」
「……それもそうですね。考えすぎ、でしょうか」少し眉を寄せて呟く。
「そうよ。だって、あいつ何も出来ないし。バレて困ることなんて何もないでしょ。
第一今療養してるのだって、カツシと実践訓練やって怪我したせいなんだしさ」
「あれは仕方ないでしょう。彼の実力は上のほうですし、
入ってきてすぐに戦わせるには無理があるというものです」
「まぁ、そりゃそうね。あれでカツシを倒されてちゃこっちが堪んないわよ」
そんな取り留めのないことを話していると、右手の通路の角から先ほどの看護婦が現れた。
隣には白衣を着て、眼鏡をかけた見た感じ20代後半の男性がいる。
あれがリルグだったら面白いのだが。
「お待たせ致しました。ここでは何ですので、応接室へどうぞ」そう言って彼は歩いて行く。
少し遅れて私たちも付いていった。応接室は1階にある。確かウィーの部屋の隣の隣だったはずだ。
ついでにそこも調べていった方が良いかもしれない。
どうせ彼女の事だ、鍵もかけずに外出してるだろう。 →次へ